はじめに
病気やケガ、妊娠や死亡時に高額な医療負担などを軽減してくれる健康保険制度。それらの保険料は、会社員であれば会社が全ての手続きを行ってくれますが、フリーランスの場合は自身で対応しなければなりません。保険料も給料からの天引きではなくその都度払うようになるため、負担の大きさに驚く人も多いでしょう。
フリーランスの健康保険といえば国民健康保険(国保)がまず頭に浮かびますが、他にも選択肢はあります。では、どのような健康保険を選べば負担が軽減し、その上、しっかりとサービスを受けられるのでしょうか。
そこでこの記事では、フリーランスが知っておきたい健康保険の種類や選び方について解説します。
高い!という声続出? 国民健康保険
国民健康保険は運営している母体(保険者)が二つあり、都道府県と市町村(市町村と23区)、国民健康保険組合のいずれかになります。では、その違いはどこにあるのでしょうか。はじめに都道府県と市町村による国民健康保険から見てみましょう。
国民健康保険は①医療分、②後期高齢者支援金分、③介護分(40歳以上65歳未満の加入者のみ)の合計金額を保険料として支払う仕組みです。ただ、保険料はそれぞれの所得や住んでいる自治体によって料金が異なります。前年度の所得によって保険料が決定するため、所得が高かった人は保険料が高くなる仕組みであることや、住んでいる自治体の財政状況、医療機関に関わる人の数が地域により異なることが理由のひとつです。
たとえば、横浜市に居住している20代の独身フリーランスで事業所得(収入から経費を差し引いた金額)が200万円だった場合、年間の保険料を計算すると199,100円(月額16,592円)となります。
一方、40歳のフリーランスで事業所得が400万円あり、38歳の妻(無職)と3歳の子どもがいる場合、家族全員の年間保険料額を計算すると539,780円となり、一か月あたり44,982円を支払うことになります。もし世帯主が40歳になっていなければ「③介護分」は負担しなくてよいので、年間の保険料は403,840円(月額35,904円)となります。また、平成26年度からは19歳未満の子どもを対象に減免措置が行われています。
上記の例は横浜市の令和4年度の試算でしたが、国民健康保険の保険料は自治体によっても、年度によっても変わります。自治体間の差は意外と大きく、年間20万円以上の違いがでることも。フリーランスで住む場所を選ばずに仕事ができるという方は、保険料負担が少ない自治体に引っ越すのも一つの方法でしょう。
また、前述したように国民健康保険の保険料は前年度の所得によって計算されるため、会社員から独立した人や昨年の収入が多かった人は高額な保険料となってしまうのが難点です。
文芸美術国民健康保険組合に加入できる人はチェック!
一方、国民健康保険には国民健康保険組合が運営するタイプもあります。
国民健康保険組合は医師や歯科医師、薬剤師、建築土木など同じ業種に就いている人たちが集まって作る組織で、令和4年現在、全国で160の組合が設立されています。フリーランスの場合は「文芸美術国民健康保険組合(文美国保)」が該当するのでチェックしてみましょう。
文芸美術国民健康保険組合は文芸や美術、著作活動に従事していて、組合加盟団体に入っている人とその家族が加入できる国民健康保険制度です。組合には令和4年現在、「東京コピーライターズクラブ」や「日本イラストレーション協会」「日本写真家協会」など69団体が加盟しており、自分の事業に該当する団体に加入することができます。
たとえば日本イラストレーション協会の場合、加入できる職業として「イラストレーター、WEBデザイナー、漫画家、編集(業)…」など細かく指定されています。加入するときには直近の確定申告書(控)を提出することになっていますが、職業欄に「サービス業」や「クリエイター」などあいまいな表現を書いていたり、イラストレーションに関係ない職種を記入していたりすると加入できないので注意が必要です。
文芸美術国民健康保険組合は、収入に関わらず保険料が一律という特徴があり、組合員一人あたり月額は21,100円(令和4年度)と決まっています(40~64歳は月額5,200円の介護保険料を加算)。また家族も月額11,600円で加入可能です。収入の多い少ないに関わらず保険料は均等なので、収入が低いときは国民健康保険より高い金額を負担することになりますが、高収入になればなるほどお得感は増します。目安として、所得が300万円を超えるなら国民健康保険より文芸美術国民健康保険組合への加入を検討するとよいでしょう。
ただし各団体に所属するには賦課金(会費)などを支払うケースが大半なので、保険料との合計金額でも判断する必要があります。文芸美術国民健康保険組合に加入すれば、組合員を対象にした人間ドック割引契約施設の利用ができるのもメリットの一つです。
退職者なら社会保険の「任意継続」という道も
会社員だった人がフリーランスになるときは、退職後に国民健康保険に加入するか、これまで加入していた社会保険を「任意継続」するかのどちらかを選択することができます。ただし任意継続ができるのは退職日までに2ヶ月以上継続して社会保険に加入していた人だけです。また、任意継続に加入できるのは「2年間」という期限も設けられています。手続きは退職日の翌日(資格喪失日)から20日以内に、各都道府県の協会けんぽ支部や各健康保険組合(健保組合)で行わなければなりません。
また、その際の保険料は退職時の標準報酬月額に各都道府県が定める保険料率をかけて算出します。標準報酬月額は上限が30万円となっており、保険料率が変わらない限りは加入期間中、保険料の変更はありません。そのため、前年度の所得で保険料の決まる国民健康保険が高額になってしまう人であれば任意継続の検討をおすすめします。
また家族がいる場合、国民健康保険は家族全員分の保険料を納付するのに対し、任意継続では扶養家族として保険料の負担なしに加入できます。つまり、扶養家族のいる人は国民健康保険より社会保険任意継続の方が大きく保険料が下がります。
ただし会社員時代は事業者と折半していた保険料も、任意継続の間は全額自己負担です。また1日でも納付期限を過ぎると資格を喪失するので注意しましょう。資格を喪失したり、加入から2年たったあとは国民健康保険など他の保険制度に加入しなければなりません。
参照:厚生労働省「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」
収入が低いうちは配偶者の扶養家族に
フリーランスとしての収入が少ないときは、社会保険に加入している家族の扶養になるという道もあります。扶養家族になれば保険料の負担はなくなりますが、扶養に入れる基準は被保険者と3親等以内で75歳未満、年収が130万円未満、かつ被保険者の年収の約2分の1未満となっています。一般的には「収入から経費を差し引いた額」で130万円未満と考えられますが、一部の健康保険組合では経費を差し引くことができないので確認が必要です。
フリーランスになったら傷病手当金がなくなる?
社会保険に入っている会社員はケガや病気で長い間仕事ができなくなったときでも「傷病手当金」を受け取れるようになっています。傷病手当金は標準報酬日額の3分の2が支給され、支給開始日から通算して1年半支給されるという手厚い制度です。
一方で国民健康保険には傷病手当金と同じような制度はありません。社会保険の任意継続をした場合も、傷病手当金は対象外となります。そのためケガや病気で仕事ができなくなると収入が途絶えてしまう恐れがあります。この不安を解消するためには、自分で民間の保険会社が提供するサービスに加入するしかありません。
「一家の大黒柱」であるなら、働けなくなったときのことも頭に入れておいた方がよいでしょう。
健康保険に入らなかったらどうなる?
健康保険の加入は毎月の保険料負担が大きいため、それならば実費負担で病院にかかる方がいいのではないか?と思われる人もいるかもしれません。
しかし日本の健康保険は、「国民皆保険制度」と定義されており、年齢に関わらず加入する義務があるものです。もしも加入しなければ、その義務を怠ったとして国民健康保険法にもとづき罰則が発生します。支払い能力があるのに保険料を支払わないということになれば、財産の差し押さえなどの処分が行われる可能性も。また一定期間、滞納を続けていると「短期保険証」に切り替わり、さらには保険証の没収、保険給付そのものの停止といった措置がとられることもあります。
医療費の全額負担は金額がかなり大きいため、体が資本のフリーランスはいつでも安心して病院に行ける体制を整えておくべきです。万が一に備えて、健康保険は必ず加入しましょう。
まとめ
フリーランスにとっての健康保険は国民健康保険だけではない、ということはお分かりいただけたでしょうか。もし会社員からフリーランスへ転向するなら、在勤中から各制度について調べておき自分に最適なものを退職後すぐチョイスできるようにしたいですね!
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